辞書指導というと、中1の最初にアルファベット順の引き方競争をやって終わり、という教室が少なくありません。しかし現場で本当に困るのは引く速さではなく、その先です。run を引いた生徒が最初の訳語「走る」だけを見て、run a shop を「店を走る」と訳す。多読の時間に1語ごとに辞書を引いて、1ページも進まない。——道具は持っているのに、使いどきと読み方を教わっていない状態です。
指導1: 引きどき——引かない判断こそ教える
辞書指導の最初の内容は、逆説的ですが「引かない場面を決める」ことです。
| 場面 | 辞書 | 理由 |
|---|---|---|
| 多読・速読の時間 | 引かない | 止まらないことが目的(多読指導の始め方の3原則) |
| 初見の読解テスト演習 | 引かない | 本番は辞書なし。推測の練習の場 |
| 精読・和訳の確認 | 引く | 正確さが目的の時間 |
| 英作文の推敲 | 引く | 自分の言いたい語を探す・確かめる |
つまり辞書は正確さの時間の道具で、流暢さの時間には置いておく。この区別は誤り訂正の技術の「活動の目的で訂正ルールを変える」とまったく同じ原理です。引く前のワンクッションとして、「まず文脈から意味を予想→辞書で答え合わせ」の順を型にすると、辞書が推測力を奪う道具ではなく、推測を鍛える道具に変わります。
指導2: 選び方——最初の訳語で止まらない
run a shop 問題への処方箋は、訳語の選び方の授業を1回やることです。素材は多義語1つで足ります。
- run を引かせ、訳語がいくつあるか数えさせる(走る・経営する・動く…)
- My father runs a small restaurant. を見せ、どの訳語なら意味が通るか選ばせる
- 「最初の訳語は多数決の1位であって、正解とは限らない。文にはめて選ぶ」とまとめる
例文を読む習慣もここで教えます。訳語より例文の方が使い方(後ろに何が来るか)を教えてくれる、というのは辞書の読み方の核心で、語彙指導の技術で扱った「文の中で出会わせる」を生徒が自力でやる方法でもあります。
指導3: 紙・電子・アプリの使い分け
どれが正解かではなく、それぞれの得意を知って選ばせます。
- 紙: 一覧性が最大の武器。目的の語の周りが目に入る(runの近くのrushに出会う)。試験で持ち込みが許されるのも多くは紙です。
- 電子辞書: 速い・例文検索が強い。授業のテンポを崩さない調べ物に向きます。
- アプリ・オンライン: 音声が出るのが決定的な利点。発音とセットで調べられます(発音指導の技術で触れた強勢記号の確認も、音声つきなら耳で確かめられます)。ただしスマホは学校のルールとの調整が必要で、通知という最強の誘惑と同居している点は正直に扱います。
学校で1つに統一する必要はありません。「今日は紙の日」と決めて一覧性の体験をさせる、家庭学習はアプリでよい、と場面で分ける方が現実的です。
辞書を語彙ノートにつなげる
引いた語をそのままにせず、語彙指導の技術の「自分の1文」につなげます。引く→例文を1つ読む→自分のことに置き換えた1文を書く。ここまでで1セットにすると、辞書を引いた回数がそのまま語彙学習の回数になります。
明日からの一歩
- 多読・演習・精読・英作文のどれで辞書を使ってよいか、教室のルールを明文化する
- run か play で「訳語の選び方」の10分ミニ授業を1回やる
- 「引いたら例文を1つ読む」を辞書使用の約束にする